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【ニュースペーパー2012年9月号】原水禁関連記事

2012年09月01日

被爆67周年原水禁世界大会が開かれる
原子力利用支える「核社会」を問う大会に

国際会議でエネルギー政策を討議
脱原発運動の新しい一歩を示す

政策を歪めてきた原子力偏重が初めて変わる可能性
エネルギー・環境戦略見直しと核燃料サイクル


被爆67周年原水禁世界大会が開かれる
原子力利用支える「核社会」を問う大会に

 被爆67周年原水爆禁止世界大会は、7月28日の福島大会からスタートし、8月4日~6日の広島大会、そして8月7日~9日を長崎大会として開催しました。福島大会から長崎大会まで多くの報告や議論を積み重ね、大会以降の様々な闘いや取り組みに展望と確信を与えることができました。
 今年の原水禁世界大会は、昨年に引き続き「『核社会』を問う」ものとし、原子力の軍事利用や商業利用(平和利用)も含め、それを支える「核社会」そのもののあり方を問うものとしました。特に、福島第一原発事故が与えた国内外への影響は大きなもので、そのことを契機とした日本社会の変化が見えつつある中での大会となりました。

二度目の原水禁福島大会
 昨年3月11日の東日本大震災から1年5ヵ月が過ぎた今でも福島第一原発事故の収束は見えず、被災地の復興も放射能に阻まれ思うように進まぬ中で、二度目の原水禁福島大会となりました。
 冒頭、川野浩一大会実行委員長が「二度と再び悲惨な原発事故が起きないよう、全ての原発の停止を求めたい」と訴え、現地からの報告では、福島県平和フォーラムの五十嵐史郎代表から、事故後の福島の変化が報告されました。その中で、県の人口も減少し、1万人を超える子どもたちが県外に避難し、いまも16万人以上の避難者が生み出され、将来に対する希望が持てない現状に置かれていることが報告され、原発事故がいかに「過酷で無惨」なものかが訴えられました。
 また、専門家からの講演として、元原子炉プラント設計者の後藤政志さんからは、「福島第一原発事故の現状と課題」について問題提起がありました。原発事故はまだ収束していないこと、収束までには十数年もの長期に渡ること、その他にも課題が山積し、それを一つひとつ解決していくには、非常に大きな困難が伴うことが指摘されました。
 医師で、チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西で活動する振津かつみさんからは、ヒロシマ、ナガサキ、チェルノブイリの経験からヒバクとどう向き合うかの提起があり、①県民の現在の健康と暮らしの保障、②放射線被害による回復できない損害と健康被害への補償、③脱原発による確実な未来に向けた保証と三つの補償(保障)の観点を示しました。

「福島の現実」を憂慮する声
 広島・長崎大会では、原水禁・連合・核禁会議の三団体での集会なども行われ、多くの参加者同士が交流を深めました。両大会を通じて、核兵器廃絶課題、脱原発課題、ヒバクシャの援護・連帯の課題の三つの課題を中心に、分科会やひろばなどの取り組みが行われました。また、子どもたちや若者の取り組みとして、「メッセージfromヒロシマ2012」や「ピース・ブリッジ2012inながさき」なども開催され、子どもたちは歌や踊りを楽しみながら、平和について考えました。

 脱原発課題の中では、多くの場面で福島からの参加者から、その実情が訴えられました。さらに分科会の中では、放射性物資の汚染の中で暮らす「福島の現実」を憂慮する声が多く上がりました。
 原子力資料情報室の西尾漠さんからは、簡単に言い切ることができない福島県民の葛藤について「放射線が健康に与えるリスクを、どのように考えたらいいかという信頼すべき情報は与えられていない。その中で被害者同士が、自らの生活をどうするかという選択の中で対立していく構図があり、一人ひとりの心に、本当はどうすればいいのかという判断の葛藤がある」と指摘されました。
 地震と原発、そして再稼働の問題については、各地で活断層の問題がクローズアップされる中、分科会でも大きな関心を集めました。地震大国の日本で「活断層上にある原発は決して動かすべきではない」ことが明らかになり、活断層などの問題がある石川(志賀原発)や新潟(柏崎刈羽原発)、北海道(泊原発)などの地元からも報告がありました。
 原発推進側は夏の電力危機を煽り、大飯原発の再稼働を強行しました。一方で多くの原発が停止したままでも、この夏を十分乗り切ることができました。原発がなくても電気は足りるし、脱原発社会は可能であることが証明されたのです。原発ゼロの脱原発社会へ向けたエネルギー政策の具体化も、今後の運動課題であることが確認されました。
 大会の中で、8月12日まで政府のエネルギー・環境会議が募集していた、エネルギー・原発政策への意見を求める「パブリックコメント」についても紹介があり、2030年の原発依存度の割合を0%にする「ゼロシナリオ」への意見の集中が訴えられました。圧倒的な0%支持を各地から上げることで、政府の政策に影響を与えていこうと提起されました。

ヒロシマ・ナガサキ、残された課題
 ヒバクシャ課題では、ヒロシマ・ナガサキの残された課題が取り上げられました。特に爆心地から12㎞圏内で原爆に遭ったにもかかわらず、旧自治体の境界を基準とする指定地域から外れているとして「被爆者」とは認められていない長崎の「被爆体験者」の課題が取り上げられました。被爆者健康手帳の交付などを求めているこれまでの「被爆体験者」訴訟は、6月25日の長崎地裁判決で、被爆体験者が被爆者に該当するかについては「高度な蓋然性の証明が必要」、内部被爆での健康被害に関しては「合理的根拠を欠く」として訴えが退けられました。判決は、爆心地から5㎞圏内しか健康被害はないとし、内部被爆を否定するものです。
 この判決の内容は、単に「被爆体験者」だけの問題ではなく、福島原発事故による健康被害にも大きな影響を与えるものであり、福島第一原発事故以降に見られた、放射線のリスクを矮小化する動きと同じものであることが指摘されました。どんなにわずかであっても、放射線によるリスクは存在することを基本にした運動が求められていることが確認されました。また、韓国の被爆者からは、在外被爆者の置かれている現状の紹介と、差別なき援護施策の実施の要求や、被爆二世・三世への援護施策の充実が訴えられました。

「核と人類は共存できない」の大きな流れ
 核兵器廃絶の課題では、東北アジアの非核化と安全保障政策を中心に議論と討論を進め、特に東北アジア非核地帯構想については、日米韓の軍事的関連が軍事演習のみならず、軍事情報の分野でも共有化が図られようとしている状況となっている中で、北朝鮮のこの間の行為が日韓の防衛体制の増強に口実を与え、それがさらに中国・ロシアによる軍備増強の名目ともなっており、東北アジアにおける軍事的緊張が高まる結果を招いていることが指摘されました。
 東北アジアの緊張緩和に向けた取り組みの緊急性、重要性が訴えられ、その一つに東北アジアの非核地帯化構想もあり、さらに今、大きな焦点となっている米軍用機MV-22オスプレイの配備は、設計構造上の問題だけではなく、沖縄への配備そのものが軍事的緊張を高める結果となることが訴えられました。
 東日本大震災と福島第一原発事故以降も、平和フォーラム・原水禁は原水禁世界大会の場をはじめ、あらゆる場面で「『核社会』からの離脱」と「一人ひとりの命に寄り添う社会と政治」を訴えてきました。大会開催前の7月16日には、東京・代々木公園で「さようなら原発10万人」集会が開催され、17万人もの人々が「脱原発」を訴えました。これまでの大会で、私たちが常に訴えてきた「核と人類は共存できない」ということが、世の中の大きな流れとなってきたことを確信できた今年の原水禁世界大会でした。


国際会議でエネルギー政策を討議
脱原発運動の新しい一歩を示す

 2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う、東京電力・福島第一原発事故は、世界の反核運動にとって大きな転機となりました。世界的に脱原発運動が広がる中、7月16日には「さようなら原発10万人集会」が東京・代々木公園で開催され、国内外から日本で開催された脱原発関連の集会では最多となる、17万人が参加しました。
 こうした高揚する脱原発への思いを胸に抱きながら、被爆67周年原水爆禁止世界大会は、7月28日の福島大会を皮切りに8月9日まで、広島、長崎で開催されました。そして8月5日には、「脱原子力に向けた構想力―フクシマ以降の原子力」をテーマとする国際会議が広島市のアークホテルを会場に開催され、熱い討論が交わされました。
 パネリストにはベーベル・ヘーンさん(ドイツ緑の党・連邦議会議員)、キム・ヨンヒさん(韓国、脱核法律家グループ「ひまわり」代表)、伴英幸さん(原子力資料情報室共同代表)、松原弘直さん(環境エネルギー政策研究所研究員)を迎え、コーディネーターを原子力資料情報室の澤井正子さんが務めました。

フクシマの深刻な現状は変わっていない
 最初に、福島県平和フォーラム代表の五十嵐史郎さんから、福島第一原発事故以降の状況報告が行われ、「政府は原発事故の収束を宣言したが、実際は破壊された原発がいまもなお放射能を出し続けており、溶融した原子炉の状況は全く把握されていない。それどころか万一、電源喪失の事故でも起これば、再臨界の危険が存在している。4号機の使用済み核燃料プールも強い余震が起こって倒壊する危険も払拭されていない」と訴えました。
 また、政府の収束宣言は、大飯原発などの再稼働を意図して出されたとも考えられると指摘し、「野田佳彦首相は『国民の生活を守るために大飯原発を再稼働すべきというのが私の判断。私が責任を取る』と述べたが、福島県民の生活を守ることに誰も責任を取っておらず、無責任な発言だ。現在もなお16万人の福島県民が故郷を追われ、避難生活を余儀なくされている。県外に6万人、子どもだけで18,000人が放射能を恐れて避難しており、さらに増え続けている」と力を込めました。
 こうした福島の深刻な報告を聞いた後、藤本泰成大会事務局長によるキーノート・スピーチが行われました。

再生可能エネルギーは最も安価なエネルギー
 その後、各パネリストによる問題提起と討論が行われました。ドイツのベーベル・ヘーンさんは「ドイツ、ヨーロッパの状況とフクシマ以降の変化」について、韓国のキム・ヨンヒさんが「韓国から見た日本の原子力政策とその影響」について、伴さんが「日本の原子力政策とその行方」、松原さんが「脱原子力に向けたエネルギー政策の可能性」についてそれぞれ報告・討論を行いました。
 初めにヘーンさんが、「10年前、ドイツでは原発が発電の30%を占めていた一方で、風力、太陽光、バイオマスの全てを合わせて、再生可能エネルギーはわずか1%しかなかった。しかし『再生可能エネルギー法』を制定し、2010年までに再生可能エネルギーが12.5%のシェアを持つように計画を立てた。実際には17%のシェアを獲得し、最近では20%を超えている。また40万人の新しい雇用(グリーンジョブ)を作り出している」と、ドイツ国内でのエネルギーを取り巻く状況の変化について解説しました。
 さらにヘーンさんは、「電力会社は再生可能エネルギーになると価格が高くなると宣伝した。しかし、再生可能エネルギーはドイツの『固定価格買い取り制度』によって保障され広がっていった。確かにこれは電気料金を上昇させる結果を招いたが、やがて人々は原発事故や放射能への心配を軽減させ、また枯渇が言われている石油の未来を心配することもないと理解した」と、人々が長期的にみれば、再生可能エネルギーが最も安価なエネルギーであることを理解するようになったと訴えました。

いまこそ原発ゼロへ向かって
 伴さんは、福島第一原発事故によって、2030年までに14基の原発を増設し、核燃料サイクルを推進するとした2010年策定のエネルギー基本計画が、根底から見直されることになったこと。そして、これまでの国のエネルギー政策を転換するまたとない機会がいま訪れていると指摘しました。
 また、国家戦略室によってエネルギー・環境会議が発足し、7月2日から8月12日まで、2030年のエネルギー・環境に関する三つの選択肢(原発依存度を軸に「①ゼロシナリオ」「②原発依存度を15%にする『15シナリオ』」「③同じく20~25%にする『20-25シナリオ』」を提示し、国民の意見を聞く「パブリックコメント」が実施されることにも触れて、「原発を廃止し、核燃サイクルを停止するためにはゼロシナリオしかない。私たちはゼロシナリオ支持の圧倒的な声を寄せなければならない。この秋、原子力規制委員会が発足するが、規制委員には『原子力ムラ』出身の委員が多数を占める恐れがあり、国民は注視しなければならない」と訴えました。
 なお伴さんの資料には、エネルギー・戦略会議の「コスト等検証会議」試算資料も添付されました。これまでの発電原価(原発建設費、ウラン燃料費、人件費など運転管理費)に加えて、政策経費(立地交付金、もんじゅ等の研究開発費など)、事故リスク対応費用(賠償・除染・廃炉費用)などを加算すると、最低でも8.9円となり、これまで5~6円であるとされてきた原発の発電コストは、約2倍に跳ね上がることが明らかにされました。

すぐにでも脱原発は可能だ
 松原さんは、20世紀が自動車産業の世紀であったとするなら21世紀は自然エネルギーの時代だとし、「すでに世界はそのように動いている。日本だけが大幅に遅れていたが、昨年の福島第一原発事故を受け、ようやく再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度が実施され、全国的に産業としての再生可能エネルギー事業が始まった。まだまだ課題は多いが、新しい時代が始まった」と、環境エネルギー政策研究所が提案している自然エネルギーを2020年に電力の30%、2050年には100%を目標とする、中長期的なエネルギーシフトのシナリオなどの図表を示しながら、具体的に脱原発の生活をすぐにでも始めることができると説明し、参加者の共感を得ました。
 今年の国際会議は全体的に短い時間の中で、深い内容の報告・討論が行われただけに、やや消化不良の感もありましたが、原水禁として脱原発運動の新しい一歩を踏み出したことを示す会議になったと言えるでしょう。

被爆67周年原水爆禁止世界大会《記録集》
講師・海外ゲストが「平和と核軍縮」「ヒバクシャ問題」「脱原発社会の選択」などのテーマで語った内容を掲載。
◎1冊1,500円(送料込み)/◎発行:10月予定。
◎申込先:原水禁 FAX 03-5289-8223


政策を歪めてきた原子力偏重が初めて変わる可能性
エネルギー・環境戦略見直しと核燃料サイクル

新しいエネルギー基本計画をつくる最終段階へ
 これまでエネルギー政策は、国会での議論もほとんど無く、経済産業大臣の諮問機関である総合資源エネルギー調査会で決められたことが、ほぼそのまま国策として通用してきました。審議会自体、事務局である官僚のまとめた原案を形式的に承認するのみに近い状態でした。3.11以降は、曲がりなりにもこれを変える力が働いています。
 菅直人前首相の設置した「エネルギー・環境会議」の枠の中で、中長期的エネルギー政策の根本的見直しが行われ、その中に位置づけられたエネルギー調査会の基本問題委員会、原子力委員会など各審議会の中には多勢に無勢ながらも原子力に慎重な立場の委員も入って、審議もネット中継され、資料も公開されるなど、従来とは様変わりしています。
 もちろん、既得権側の抵抗は大変強く、事務局の官僚が意図的に「論点整理」し、ベストミックスなるキーワードで原発推進政策の温存を図ってきました。6月末に出された「エネルギー・環境に関する選択肢」では、2030年の原発依存度によって0%、15%、20~25%の三つのシナリオが示されました。いま新しいエネルギー基本計画をつくる最終段階に入っています。

8月12日までに9万弱のパブリックコメント
 全国11ヵ所での意見聴取会や、パブリックコメント(意見)募集を8月12日まで行うなど、エネルギーの未来が国民的議論で決まるとされています。これを現実とするには、これからのエネルギー政策決定プロセスに関与し続けることが肝心です。選択肢の提示がずれ込んだまま、「国民的議論」の期間を短縮し、さらにパブコメや意見聴取会での意見をどう扱うかも公開しないまま、閣僚のみの「政治判断」で原子力含めたエネルギー政策を決めてしまうことは許されません。
 選択肢の全てで、省エネや再生可能エネルギーに消極的であり、省電力が1割固定では低過ぎです。再生可能エネルギーもより早く積極的にシフトするべきです。原発をゼロにする時期に関しても、明確に示されていませんが、設備容量が足りているのですから、電力会社の恣意的経営にまかせず、発送電分離を含めた電力システム改革を直ちに行い、関西電力に見られるような原発依存体質を改めるのが先決でしょう。ヒロシマ・ナガサキ、フクシマを体験した日本は、民主的な議論の上で、エネルギー・デモクラシーをつくり出すべきです。

原発ゼロで核燃料サイクルを止めよう
 選択肢の議論の中から意図的に外されているのが、再処理などの核燃料サイクルです。「ゼロシナリオ」のみが再処理中止を含み、その他では自動的に再処理の続行に結びついてしまいます。さらに、核燃料サイクルについては政府が決めるとされているのです。
 元々、絵空事だった「使った以上の核燃料を高速増殖炉でつくり出す」という国策である「核燃料サイクル」は、解決策の無い使用済み核燃料をどうするかという問題を先延ばしにする役目しか果たしませんでした。結果としてプルトニウムを45トンも溜めこみました。使用済み核燃料は、六ヶ所再処理工場の貯蔵プールに運び込まれていますが、ほぼ満杯です。各原発サイトの使用済み核燃料プールも、保管容量の合計の7割近くが埋まっています。
 原発が稼働していなくても、使用済み核燃料がプールにあるだけで危険な事が福島第一原発の事故で明らかになった今、既存の使用済み核燃料は、より安全な乾式貯蔵で管理すべきです。六ヶ所再処理工場が本格稼働すれば、核兵器1,000個分ものプルトニウムが毎年取り出されることになります。核保有国以外で唯一、再処理を進めている日本は、安全保障を核兵器に頼ろうと考える世界の国々に、「平和利用」で核兵器物質を保有する先例を示すことになってしまいました。これ以上プルトニウムを増産し、核テロの脅威も高めることは、あまりにも世界の現実から乖離しているのではないでしょうか。
 これまでの原子力大綱の見直しの中で、プルトニウムを取り出す再処理をしない「直接処分」(そのまま貯蔵すること)のほうが数兆円も経済的であることが明らかになっています。将来世代に使用済み核燃料の重い負担を負わせ、放射能汚染のリスクも押し付ける原発は、もはや倫理的に許されるべきではありません。2030年までと言わず、直ちに原発ゼロを達成するべきです。

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