2019年8月

広島大会 第6分科会 脱原子力Ⅲ─福島の現実と課題

2019年08月05日

被爆74周年原水爆禁止世界大会  広島大会

第6分科会  脱原子力Ⅲ─福島の現実と課題

 

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日時:8月5日(月)9:30~12:30

会場:ワークピア広島 4F 芙蓉 (広島市南区金屋町1-17/℡082-261-8131) 

講師:佐藤和良(福島原発刑事訴訟支援団)、角田政志(福島県平和フォーラム代表)

◆初参加者は3割程度

 

 まず、福島県平和フォーラム代表の角田政志さんから、7月31日に東電福島第二原発全基の廃炉が決定されたことが報告された。しかし、引き続き課題は残っており、福島第二原発にしても、解体廃棄物の処分場の予定地も決まっていない状況であること、また、福島第一原発についてもトリチウム汚染水の問題など、廃炉完了の見通しが立っていないことが指摘された。さらに住民の健康の問題に触れ、モニタリングポストの撤去問題は、住民の不安を少しでも解消するためのものであるとして、国の撤去方針には、反対し続けていくとした。また、4巡目に入っている県民健康調査についても、被災者に対する補償をどうしていくのかと言う観点から交渉を続けてきており、特に19歳以上の甲状腺に関わる医療費無料化に取り組んでいることが報告された。さらに、除染の問題で、環境省の方針が汚染度の低いものは公共事業で再利用するという方針について、「安全性の確保ができるのか。軽く考えている。」と批判した。最後に福島の犠牲を無駄にしないためにも、原子力発電所の廃炉を実現していこうと、呼びかけがされた。

 質疑としては、健康被害について、事故後に白血病の発症率が増えているということが言われているが、実情はどうか(長野)などが出され、角田さんからは、マスコミもなかなか報道しないので、情報交換していくことが大切だとの話がされた。

 続いて、福島原発刑事訴訟支援団の佐藤和良さん(写真)から、「終らない福島原発事故と東電刑事裁判」と題した報告を受けた。佐藤さんは、冒頭、政府の原子力緊急事態宣言は未だ解除されていないことに触れ、福島第一原発の事故は、まだ終わっていないと指摘し、国の政策は復興優先で人権無視であると批判した。国は、なんとか福島原発事故は終わったことにしたいと思っており、2020年の東京五輪までに決着させようとの意図があると指摘した。区域外避難者の住宅無償提供打切りなど、被災者を分断するような政策が実行されている現状の中、東電に対して、多くの民事訴訟が行われている現状について報告された。

 続いて、刑事裁判について短編映画「東電刑事裁判 動かぬ証拠と原発事故」を上映する形で報告された。裁判の過程で、東電の幹部は事故の原因の巨大津波を予期していたにも関わらず対策を取らなかったことや、双葉病院において、避難対象であった436名の避難誘導が遅れ、結果的に44名の命が奪われたことなどが明らかとなっていることが紹介された。2019年9月19日に判決の予定であるこの裁判は、日本の司法が問われているとともに、有罪判決を求める国民世論が大きくなるかどうかがポイントであるとして、世論喚起への協力が呼びかけられた。

 質疑としては、「津波対策」という観点だけでなく、「地震」という観点からも刑事裁判ができたのではないか(福岡)など質問が出されたが、証拠の関係で、「津波」にポイントを絞らざるを得なかったことなどが報告された。

 最後に、全体で「核と人類は共存できない」ことを確認して、分科会を終了した。

 

広島大会 第3分科会 平和と核軍縮Ⅲ─朝鮮半島の非核化と日本

2019年08月05日

被爆74周年原水爆禁止世界大会  広島大会

 第3分科会 平和と核軍縮Ⅲ─朝鮮半島の非核化と日本

 

日時:8月5日(月)9:30~12:30

会場:ホテルチューリッヒ東方2001 4F エーデルワイス

(広島市東区光町2-7-31/℡082-262-5111)

講師:梅林宏道(ピースデポ特別顧問)

海外ゲスト:スージー・アリソン・リットン(米国・ピースアクション)

ソン・ヨンフン(韓国・参与連帯)

◆初参加者は4割程度

 

 米国・ピースアクションのスージー・アリソン・リットンさんからは、

①「核兵器や核戦争の脅威は、貧困、不平等、テロ、気候変動などとともに実存的脅威のエコシステムと結びついている」としたうえで、現在の米国の政治情勢は世界の非核化にとって困難な状況であるとの認識を示されました。

②そして、米国における「ピースアクション」の様々な活動を紹介され、その中でも「米国による核兵器の先制使用を禁止する法案」や「核兵器を発射する大統領の一元的な権限を廃止する法案」の取り組みを展開しているとの報告がありました。

➂最後に、朝鮮半島の非核化を実現するには、米朝双方が信頼感を醸成し、互いに譲歩することが必要で、非核化を経済制裁解除の条件にするのではなく、交換条件にすることが必要である

と発言されました。

 

 韓国・参与連帯のソン・ヨンフンさんからは、

①北朝鮮は朝鮮戦争の中盤から米国からの核攻撃を抑止するために必要として、核兵器にとりつかれてきた。しかし、北朝鮮が核兵器を追求し続けることは北朝鮮にとって大きな負担である。

②北朝鮮の国民は次に指導者に何を望んでいるか。経済開発なくして指導者の地位を固めることはできないだろう。

③北朝鮮の段階的なアプローチと米国の包括的なアプローチは両立可能であり、朝鮮半島の非核化と平和体制の構築を同時に行わなければならない。北朝鮮の政権の保証と米国の北朝鮮敵視政策を放棄することが必要である。

と発言されました。

 

 ピースデボの梅林宏道さんからは、

「北東アジア地域の平和と安全への日本の関与」と「グローバルな核兵器廃絶への日本の使命」の二本の柱から発言がありました。

①まず、日本の70年に及ぶ過酷な朝鮮支配の歴史を振り返りながら、日本人があまりにも歴史を知らない。

②日韓基本条約を結んだが、韓国の民衆にとって「植民地支配の精算」が当時の独裁政権下で行われたことが、尾を引いて現状に至っている。

③北朝鮮が核保有する理由は一貫している。「米国からの核攻撃の脅威への対抗」であり、国の脅威がなくなれば核は必要ないということ。

④朝鮮半島の非核化と北朝鮮の安全の保証を同時に解決するには、「非核兵器地帯条約」(現在、世界には5つの条約があり、117カ国・地域が含まれる)を北東アジア、朝鮮半島につくることが必要。

⑤そうすると南北朝鮮、米国、ロシア、中国の5カ国が約束をしないといけないが、日本も加わらないと在日米軍の非核化の検証ができない。

⑥日本が核兵器禁止条約に協力できない理由は、「日本を守るために核兵器を使え」としていているため。「核の傘の政策」の転換を迫らないといけない。

と発言されました。

 

 質疑では、日本が核兵器禁止条約に賛成しないことについて、米国における核兵器に対する運動の現状について、在韓米軍の核について、最近の日韓関係について、市民レベルでの交流の必要性について、原発を含む核廃絶についてなど、7人の参加者から発言がありました。

 
 

広島大会 第2分科会 平和と核軍縮Ⅱ―日・米・韓軍事同盟の行方

2019年08月05日

被爆74周年原水爆禁止世界大会  広島大会 

第2分科会 平和と核軍縮Ⅱ―日・米・韓軍事同盟の行方

 

広2.jpg日時:8月5日(月)9:30~12:30

会場:RCC文化センター 7F (広島市中区橋本町5-11/℡082-222-2277)

講師:前田哲男(ジャーナリスト・軍事評論家)

海外ゲスト:ハン・チュンモク(韓国・進歩連帯)

沖縄ゲスト:岸本喬(沖縄平和運動センター事務局次長)

◆初参加者は全体の8~9割

 

 前田さんより、8月2日にINF全廃条約が失効したことによって、軍拡競争が激化し、米国は中距離核戦力の太平洋配備をすすめる。それにより、秋田・山口に建設予定の「イージス・アショア」が迎撃装置から攻撃装置にされる危険性を指摘された。

 また、同日、安倍政権は対韓半導体輸出規制に続き、輸出優遇措置からの韓国除外を閣議決定したことをあげ、これにより、日韓は経済戦争に突入することになるとの懸念を示された。そして、1998年の日韓パートナーシップ宣言にもとづき、両国民の対立を煽るようなことはやめ、対話を続けるべきだと述べられた。

 ハンさんからは、朝鮮半島の恒久的平和と南北間の関係改善は、対朝鮮を掲げ、憲法「改正」や軍備増強をめざす安倍政権を脅かす状況となる。そのため、今回の報復措置によって、朝鮮半島情勢の緊張を高めようとしていると指摘された。

 岸本さんからは、沖縄で見られる軍備増強の報告があった。辺野古への新基地建設もそうだが、前田さん、ハンさんも指摘されている南西諸島への自衛隊増強の動きは、中国を主敵とした東シナ海から南シナ海にかけての南西諸島防衛ラインに他ならず、米軍の先兵部隊としての自衛隊となっていると指摘された。

 最後に運営委員からは以下のようなまとめがあった。

「これらの我々の活動に大きな示唆をいただいた。米トランプ政権のINF条約からの脱却は、来年のNPT再検討会議において、非常に大きな影響を与えるのではないかと危惧している。現在展開している1000万署名の活動の強化をお願いしたい。今後、被爆者の実相をどのように次世代に伝えていくかが我々の大きな課題である。7月の参議院議員選挙では、投票率が50%に届かない中で、自公が3分の2に迫る議席を得た。今回は政権交代につながる選挙ではなかったが、政権交代なくしては核兵器廃絶なはいと考える。そういうことも含めて我々がそれぞれの地域でやれることを着実にやっていきましょう。」

 
 

広島大会 第1分科会 平和と核軍縮Ⅰ─沖縄で何が、起きているのか

2019年08月05日

被爆74周年原水爆禁止世界大会  広島大会

第1分科会 平和と核軍縮Ⅰ─沖縄で何が、起きているのか

 

日時:8月5日(月)9:30~12:30

会場:ゲバントホール(広島市中区本川町2-1-13和光パレス21  5F/℡082-503-1711)

講師:北上田毅(沖縄平和市民連絡会)、湯浅一郎(ピースデポ共同代表)

◆初参加者は7割程度

 

 ○辺野古新基地建設は頓挫する

 沖縄防衛局が2015年に行ったボーリング調査で、大浦湾には海面下90mに軟弱地盤が広がっていることがわかったが、政府は2019年1月の衆議院本会議で地盤改良工事の必要性を認めるまで3年以上にわたって軟弱地盤の存在を隠し続けていた。講師は、「辺野古新基地建設事業を左右させられることを避けるため、防衛局が意図的に隠ぺいし続けたものだと」指摘。

 地盤改良工事の必要があるのは海面下90m、一方で国内に存在する作業船は海面下70m程度が能力の限界だが、政府や防衛局は「必ずしも固い地盤まで改良しなくてもよい。70mまでの改良でも問題はない」と主張する。講師は「関西空港では地盤沈下対策に5年間で1千億円もの巨費を投じて補修工事を行っている。辺野古には活断層もあり、軍事空港として運用する中で同じように維持工事はできないだろう」と疑問を示す。

 また、「沖縄県知事も再三にわたって変更申請の承認は難しいと示唆している。知事が不承認とした時点で辺野古新基地建設事業は頓挫する」と指摘した上で「民意が示されるたびに強権な姿勢がエスカレートする。土砂が入るほど辺野古の回復は困難になる」とし、新基地建設計画の疑問と反対運動の強化を呼びかけ。

 

 ○生物多様性・非軍事から見て辺野古新基地建設に大儀なし

 世界中の海生哺乳類の約33%が絶滅の危機にある中、沖縄ではジュゴンが激減している。防衛省が辺野古周辺で確認した3頭のジュゴンのうち1頭の死骸が2019年3月に今帰仁村の海岸に漂着しているのが確認され、残る2頭も少なくとも1年程度、生存が確認されていない。

 埋立てのための土砂は、西日本各地の採石場から搬入する計画になっている。しかし、温帯気候である本州と亜熱帯気候である沖縄では異なる生態系であり、外来種の侵入が危ぐされる。砂杭用の海砂も沖縄だけでの調達は不可能で、本州から持ち込まれることが考えらる。海砂採取によって海底の砂に生息している貝などのすみかが奪われ、減少することで生態系や漁業にも影響を与えることが懸念されることから、瀬戸内海に面する多くの県では海砂採取を禁止している。

 講師は「生物多様性・非軍事という観点から見て新基地建設事業は中止しなければならない。また、朝鮮戦争の終結や冷戦構造の解消に向かっていく中、北東アジアで米軍の役割を強化することにつながる新基地建設は時代錯誤。そうした議論になっていくはずだ」と期待を寄せるとともに、「本州の採石場で外来生物の実態調査や、気候帯の違う生態系の移動につながる物資の大量移動をさせない仕組みをつくる必要がある」とした。

 

会場からの質問

○沖縄の砕石メーカー13社のうち1社だけ独占させている、「政府が加担した『犯罪行為』について」。また、北東アジア非核地帯をつくることで、世論として「中国にやられるのでは」ということが出てくると思うが(大阪)

「桟橋を貸すことで反対運動等で迷惑をかけるから、単価を上積みしながら琉球セメント1社のみ独占させている。露骨な官製談合だ。」(北上田)

「『中国にやられる』等といった漠然とした感覚をなくしていくために、外交によって国際法的なものをつくっていくことが重要。」(湯浅)

 ○大浦湾の埋立ては本当にできるのか(千葉)

「砂杭の強度が足りない可能性がある。形の上では工事ができてもその後のことは誰も想像がつかないことが出てくるはず。」(北上田)

 ○沖縄県の対応の甘さもあるのではないか。情報の拡散・発信が少ないのでは(広島)

「県政の柱が辺野古新基地建設反対なのであれば、そのことにつながる一切の事業の許認可については毅然とした対応を求めなければならない。沖縄も少数の活動家で取組んでいる中、全国から支援に来てくれる人達も年々減ってきている。運動も沖縄だけの負担にならないよう、引き続き支援をお願いしたい」(北上田)

 

 

核兵器廃絶へ 原水禁世界大会・広島大会はじまる

2019年08月04日

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  「核も戦争もない平和な21世紀に!」―被爆74周年原水爆禁止世界大会・広島大会が8月4~6日の日程で始まりました。
 毎年、最初の行動は「折鶴平和行進」(上写真)。全国を回った「非核平和行進」を受けて、平和公園原爆資料館前に集まった全国の参加者は、横断幕を先頭に、のぼり旗などを持ちながら広島市内を行進。子ども連れの参加者も目立ち、「核兵器を廃絶しよう!」「原発の再稼働は許さない!」「被爆者の支援を!」などと、炎天下にもかかわらず、コールを繰り返しながら、県立総合体育館まで元気に歩きました。

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トランプ・安倍政権へ厳しい批判
 県立総合体育館で行われた開会総会には1900人が参加。原爆犠牲者への黙とうに続き、主催者あいさつに立った川野浩一・大会実行委員長(上顔写真左・原水禁国民会議議長)は「地球上に存在してはならない核兵器がいまだ1万4千発もあり、さらにトランプ米大統領はイランとの核合意やロシアとの中距離核戦略(INF)からの離脱を表明。8月2日にINFは失効した。来年の核拡散防止条約(NPT)の再検討会議も成果が期待できない」と、厳しい情勢を指摘。「特に2017年に国連で採択された核兵器禁止条約に安倍政権は反対し、国内世論も盛り上がっていない。今こそ私たちの運動の真価が問われるときだ」と訴えました。
 松井一寛・広島市長(代理出席)、湯崎英彦・県知事(メッセージ)からの来賓あいさつの後、大会に参加した多数の海外ゲストが紹介され、代表して米国ピースアクションのスージー・アリゾン・リットンさん(上顔写真右)が「核兵器は気候変動と並び世界の人々を恐怖に陥れている」とトランプ政権を批判し、「しかし力による安全保障は真の安全につながらない。全ての人たちの幸せのために連帯して運動を続けよう」と呼びかけました。

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被爆者の実相を伝えよう
 被爆者の訴えを、広島県被団協・被爆を語り継ぐ会の高品健二さん(上顔写真左)が行いました。高品さんは8歳の時に爆心地から2.5キロの所で被爆。「外で遊んでいて青白い光を見たと思ったら、10メートルほど飛ばされていた。父はすでに満州で戦死しており、母も放射線を浴びて1週間後に白血病で亡くなった。残された自分も被爆したことで辛い思いを続けてきた」と経験を語り、最後に「こうした犠牲は私たちを最後にしてほしい。そのため命のある限り語り継ぎ、思いを世界の人たちに届けたい」と述べました。
 毎年、全国の高校生がジュネーブの国連欧州本部を訪れ、核兵器廃絶を訴えている高校生平和大使は、今年は第22代を迎え、広島県内から選出された牟田悠一郞さん、北畑希美さん、松田小春さんが登壇し、代表して牟田さんが「私の祖父が原爆を経験したことから、若い世代がこれからもっと学び、伝えていかなければならない」と決意を述べました(上写真)。
 2011年3月の福島第1原発事故の問題で運動を続ける福島県平和フォーラムの瓶子高裕事務局次長が、7月27日に開かれた原水禁福島大会を報告するとともに、「福島第2原発の廃炉が決定し、県内全ての原発が無くなるが、廃炉までの長い工程や廃棄物問題、さらに被災者の健康と生活再建など課題は山積している」と、さらなる支援を呼びかけました。
 大会の基調を藤本泰成・大会事務局長が行い、核兵器をめぐる世界の状況、核の商業利用(原子力エネルギー)の現状、ヒバクシャ・核被害者への援護と連帯について当面する課題を提起し、「命の尊厳を基本に闘いを前進させよう」と訴えました。大会の基調はこちら
 大会は「原爆を許すまじ」を全員で合唱し、金子哲夫・広島県原水禁代表委員が「被爆の実相という原水禁の原点を学び運動する大会にしよう」と閉会あいさつを行いました。(下写真は合唱する参加者)
 

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中距離核戦力(INF)全廃条約失効に関する事務局長談話

2019年08月02日

 

201982

 

中距離核戦力(INF)全廃条約失効に関する事務局長談話

 

原水爆禁止日本国民会議

事務局長 藤本泰成

 

 米露の二国間で交わされていた「中距離核戦力(INF)全廃条約」が、82日失効した。今年2月に米国は、ロシアが条約に反して中距離核の開発を進めているとして、条約からの離脱を表明して以来、ロシアと対立したまま条約が定める失効日を迎えた。核兵器禁止条約が採択され、徐々に署名・批准する国が増加し、核兵器廃絶への声が高まった中で、中距離核戦力(INF)全廃条約の失効の影響は大きい。「核なき世界」を希求してきた国際的機運の後退が懸念される。

 INF全廃条約は、東西冷戦の中1987128日に、米国とロシア(旧ソ連)の間で調印され、条約が定める期限(1991年)までに、米露双方の中距離核戦力は全廃された。ヨーロッパ社会の安全保障にとってきわめて重要な条約であったことは間違いない。米トランプ政権は、条約に参加しない中国も含めて新たな核軍縮の枠組みをと提言したが、この間そのような状況が動き出したとは聞かない。一方的な離脱と提言からは、何も生まれてはいない。

 「核なき世界」を提唱した米オバマ前政権の政策から一変して、米国トランプ政権は、自国第一主義と力による平和を標榜して、他国に対して様々な圧力をかけ続けてきた。昨年のイランの核合意からの離脱は、ペルシャ湾ホルムズ海峡の不安定化をもたらし、自ら世界各国へ有志国連合への参加を呼びかけるものとなった。INF条約やイラン核合意からの離脱は、その象徴的なものである。これまで世界が長い間地道に積み上げてきた、平和と核兵器廃絶への枠組みを、米トランプ政権が一方的に破壊していくことは絶対に許されない。2021年には、新戦略兵器削減条約(新START)が期限を迎える。更なる削減に向けて米露両国は、条約の延長に向けた交渉をすみやかに開始すべきだ。

 米トランプ政権は、核政策の見直し(NPR)において、地域を限定して使用可能とする核弾頭の小型化や通常兵器の攻撃に対して核の使用を可能とするなど、核攻撃能力の強化を狙っている。自らが核に依存する一方で、朝鮮民主主義人民共和国に対して核政策の放棄を要求している。自らの強力な軍事力を背景にして、思うがままに主張していく米国の姿勢が世界平和をつくりあげるとは決して言えない。一方的で独善的な圧力は、予期せぬ事態を誘発していく可能性がある。

 日本政府も、日米同盟の深化を標榜し、米国の核抑止に依存し核兵器禁止条約の署名・批准に否定的な姿勢を崩さない。唯一の戦争被爆国を標榜する日本の姿勢とは、到底言えるものではない。

 2020年に控えたNPT再検討会議に向けて、米国を中心とした核兵器保有国は、核兵器廃絶へ向けた確固たるアプローチの再構築をめざさなくてはならない。日本は、そのためのイニシアチブを確立しなくてはならない。原水禁は、原水禁世界大会を前に、「核絶対否定」の原則の下、核兵器廃絶の声を後退させることなく、全力でとりくんでいく。

 

 

 

 

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