ニュース

【ニュースペーパー2011年4月号】原水禁関連記事

2011年04月01日

●未曾有の大災害に襲われた福島第一原発
 危機的状況続く 一日も早い収束を

●世界の核兵器の状況を考える(1)
 楽観できない核軍縮

●《各地からのメッセージ》
  「核燃阻止」へ、六ヶ所再処理工場を止める運動を強化

 青森県平和推進労働組合会議 事務局長 米沼 一夫

●祝島自然エネルギー100%プロジェクトがスタート
 地産地消できる自分たちの電気や熱を

 環境エネルギー政策研究所 顧問 竹村 英明


未曾有の大災害に襲われた福島第一原発
危機的状況続く 一日も早い収束を

shinsai_shinbun.JPG

震災を伝える各社の新聞記事

東日本を直撃した巨大地震
 3月11日、14時46分頃、三陸沖(北緯38.0度、東経142.9度、宮城県牡鹿半島東130㎞付近、深さ約24㎞)で、マグニチュード9.0という巨大な東日本大地震が発生しました。その地震発生から今日でまる一週間が経とうとしています。その間、震度5強以上の地震が20回以上も繰り返され、甚大な被害が東北を中心に発生し、多くの爪痕を残しました。
 被災地では、交通・通信・医療・食料・水・居住などのライフラインが喪失し、その復旧もめどが立っていません。現地では被災者救援に全力が注がれていますが、被災者が求める要求にはいまだ届いていないのが現状です。今回の震災により、死者・行方不明者は2万600人を超え、44万人が避難所生活を強いられています(3月18日現在)。この数字は、今後もさらに増えようとしています。これから、私たちも協力しながら、全力を挙げて救援、復旧に向けて努力を重ねなければなりません。

福島第一原発で連鎖的に事故が発生
 東日本大地震は、地震時に運転中であった東京電力・福島第一原子力発電所、同第二発電所、東北電力・女川原子力発電所、日本原電・東海第二原子力発電所の計11基の原子炉が自動的に停止しました。しかし、地震による影響で外部電源が失われました。女川原発や六ヶ所再処理工場では非常用電源が稼働する事態となりました。しかし、福島第一原発は、津波によりオイルタンクが流出し、非常用電源も津波の影響で全て動かなくなり、非常用炉心冷却装置が注水不能に陥りました。事態はさらに進み、炉心の冷却不能、そして使用済み核燃料のプールも電源喪失による冷却不能に陥りました。
 同原発1・2・3号機では水素爆発による原子炉建屋や格納容器下部の圧力抑制室の破損を引き起こしました。原子炉を制御する各種の計測器も故障し、現場は放射線も強く容易に原子炉に近づくこともできず、原子炉そのものを制御することができない非常事態を招きました。まさに危機的状況にあります。

zu1.GIF
図1(東京電力HPより)

東京電力によるこれまでの地震対策の甘さ
 当初、東京電力は津波対策を軽く見ていました。東京電力のホームページを見れば、「原子力発電所では、敷地周辺で過去に発生した津波の記録を十分調査するとともに、過去最大の津波を上回る、地震学的に想定される最大級の津波シミュレーションにより評価し、重要施設の安全性を確認しています。また、発電所敷地の高さに余裕をもたせるなどの様々な安全対策を講じています」とされて、津波が直接原子力施設を襲うことはないとしていました(図1)。福島第一原発の防波堤は約6mほどでした。今回はそれを上回る津波がきたことになります。
 同ホームページでは、原子力発電所建設の際には、「事前に徹底した地質調査を行い、発電所の敷地を含む周辺の地質・地質構造、活断層および、過去に発生した地質等を確認・評価しています」とし、原子炉の設計も「考えられる最大の地震も考慮して設計」とされています。しかし、原子炉圧力容器などはSクラスとして、高い耐震性を与えられていましたが、発電機、循環水系などはCクラスとして耐震設計上も弱い部分とされていたのです。津波による影響が大きかったのですが、今回の一連の制御不能の事態には地震動による影響も考えなければなりません。今後、事態の収束を待って、徹底した検証が必要になります。

jikomae_fukushima_genpatu.jpg事故前の福島第一原子力発電所(東京電力HPより)

zu2.JPG

図2

「非常事態」は現在も続く
 福島第一原発での一連のトラブル(図2)によって、政府は原子力緊急事態宣言を発して関係者とともに懸命に事態の収束に動いています。特に3号機に対して自衛隊や消防庁などの協力を得て、空と陸からの放水で使用済み核燃料のプールを冷やそうとしています。しかし、現場は放射能が強く、作業員も十分に動けない中での活動で、思うように成果があげられていません。今後もこの事態が続けばさらに厳しい事態につながっていきます。
 現在、政府は原発から半径20km圏内に避難を指示し、20~30km圏内は屋内退避としています。事故の拡大が続く中、この範囲設定で良いとはとても思えません。原水禁として、この状況に対して3月16日に緊急要請として、「妊産婦並びに乳幼児・児童・生徒などの避難について」を首相宛に提出し、関係国会議員にも要請しました(原水禁ホームページ参照)。事態がより一層深刻化する中で、被曝も喫緊の問題となっています。すでに現場で作業する人々の被曝線量が、緊急時被曝上限100ミリシーベルトを大きく超え、250ミリシーベルトまで引き上げられました。これまでの法令にもない超法規的措置です。現場の労働者に、そこまで迫るほど事故が厳しいものであることを示しています。

今後、事態はどのように推移するのか
 厳しい状況が続く福島第一原発の今後の推移はどのようなものになるのでしょうか。3月17日に参議院議員会館を会場に、原子力資料情報室の主催で開催された院内集会では、「福島第一原発で何が起きているのか」と題して、元東芝の原子力技術者の後藤政志さんから報告がありました。主に原子炉格納容器の設計に携わったという後藤さんからは、今後予想される危険として、以下の三つの可能性が指摘されました。

(1)原子炉の冷却ができないと炉心が溶融して原子炉の底に原子炉の底に溶融物(デブリ)が落ちる。さらに冷却ができないと原子炉容器の底が抜ける。溶融物が格納容器の床を突き抜けコンクリートと反応し大量の水素ガス等を出す。この段階で格納容器が破損するので外部に大量の放射性物質が放出される。

(2)冷却に失敗すると事故の進展に伴い水素爆発、水蒸気爆発、あるいは再臨界が起こりうる。大規模な爆発現象を伴うと、大量に放射性物質が飛び出し、チェルノブイリのようになる。爆発を起こさない場合には、徐々にではあるが放射性物質が外部に出続ける可能性がある。

(3)原子炉建屋の上部のプールに使用済み燃料が大量に貯蔵されている。冷却できなくなると、使用済み燃料が溶融し、同様に放射性物質が撒き散らされる可能性がある。

 大変な状況下で、関係者による懸命な努力がなされています。私たちは一刻も早く事態の収束が図られることを切に願っています。しかし、政府や事業者、マスコミなどの発表や報道を冷静に見れば、より厳しい事態が予想されます。
 安易な楽観論は国民の選択を大きく誤る恐れがあり、今後の推移に注目していかなければなりません。次号にも詳しい事故について報告などを掲載します。
 

(3月18日)


世界の核兵器の状況を考える(1)
楽観できない核軍縮

核弾頭の削減幅が小さい新START
 今年2月5日に新START条約が発効したのを機に、世界の核兵器の状況を考えてみます。米国科学者連合(FAS)が2月19日に、各国の核兵器保有状況を公開しています。世界の90%超の核兵器を保有している米ロの状況は以下のとおりです。

 

kakumondai_zu1104_1.JPG

 新STARTでは7年以内に米ロの核弾頭数の上限を1,550発、運搬手段(ミサイル、原潜、爆撃機など)を800基(実戦配備は700基)に制限することになっていますが、条約には大きな問題が存在していることは、昨年4月に米ロ首脳による署名の直後から語られてきました。
 それは①戦略爆撃機にはさまざまな機種があることを理由に、核弾頭数に関係なく1機=1発の核弾頭として計算される。②配備から外す核弾頭は廃棄する義務はなく、備蓄核弾頭として保有が可能ということにあります。
 確かに1992年12月発効の「第1次戦略核兵器削減条約」(START-Ⅰ)との比較では大幅削減ですが、2003年6月発効の「米ロ戦略的攻撃能力削減に関する条約」(モスクワ条約)との比較では、核弾頭数はあまり削減されるとは言えません。すでにモスクワ条約によって、核弾頭数がある程度削減されていて、さらに戦略爆撃機1機=1発と計算すると、実際の核弾頭数はそれほど削減されないことになります。

期待は今後の戦術核削減交渉に
 新START調印後に、「米国の憂慮する科学者同盟」(UCS)が、条約による爆撃機1機=1発を適用すると、核弾頭数は米国が1,762発、ロシアは1,741発。さらに運搬手段は米国が798基、ロシアは566基になると、新STARTの不十分さを批判しています。
 この計算ではロシアは運搬手段を増やすことができる上、米ロとも実戦配備から外した核弾頭は備蓄に回せますから、新STARTの積極的な意味は、米国のブッシュ前大統領が「モスクワ条約」で無しにした検証査察の復活と、さらに交渉の過程で醸成された米ロの信頼関係が回復(リセット)し、これまで手がついていない非戦略(戦術)核兵器の削減交渉へ取り組むことにあると言えます。

戦略、非戦略の区別はできない
 ロシアは新START交渉の過程で、米国が北大西洋条約機構(NATO)で展開するミサイル防衛や、米国の「即時グローバル打撃」(PGS、地球のあらゆる地域を短時間で攻撃するシステム、戦略原潜に通常弾頭搭載も含まれる)を脅威と感じ、懸念を持ち続けてきました。
 そして調印の日、条約からの脱退を規定した第14条3項の「異常な事態」に「米国のミサイル防衛システムがロシアの戦略核兵器の能力に脅威が生じた場合は、条約から脱退する権利を有する」と声明しました。
新条約の前文には「戦略攻撃兵器と戦略防衛兵器は相互に関連していること」、戦略攻撃兵器の削減によって「戦略防衛兵器が戦略攻撃兵器の適合性、有効性を損なうものでないこと」と述べられていますが、ロシアは不安を拭いきれていないのです。
 一方、米国議会はロシアの非戦略核兵器が米国との均衡を欠くという懸念のほか、ミサイル防衛やPGSに条約が障害とならないことを求めました。
 上院はまた、新START発効から1年以内に非戦略核兵器削減交渉をロシアと開始することを大統領に求める決議を採択しました。
 こうした懸念に対応するため昨年、オバマ米大統領は新START批准法案を議会に提出するにあたり、核兵器の信頼性を維持し、核兵器開発基盤を強化するための予算増額計画を提案しました。それは2011年度~2020年にかけて総額810億ドル、各予算年度で70~90億ドルという内容です。
 戦略核兵器と非戦略核兵器の区別は厳密には不可能で、米ロ間では射程5,500㎞以上の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)搭載の戦略原潜、航行距離の長い爆撃機などが新STARTで規制の対象となりますが、非戦略核兵器でも広島・長崎原爆以上の破壊力を持つものもあり、戦略・非戦略の線引きは、核兵器の性質上不可能と言えます。
 ロシアは2月24日、戦略核兵器強化の計画を発表しました。新たな核軍拡の動きから目が離せません。


《各地からのメッセージ》
「核燃阻止」へ、六ヶ所再処理工場を止める運動を強化

青森県平和推進労働組合会議 事務局長 米沼 一夫

 3月11日に発生した東北地方太平洋沖震災で被災した皆様に対し、心から御見舞いを申し上げますとともに、犠牲者の皆さまに謹んで哀悼の意を表します。私たち、「青森県平和労組会議」の重要な取り組みの一つに六ヶ所再処理工場に関わる運動があります。3月4日、「核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団」が、国に六ヶ所再処理工場の事業許可取り消しを求めた訴訟の口頭弁論が青森地方裁判所で行われました。東洋大学の渡辺満久教授は、六ヶ所再処理工場の近くの活断層の存在を指摘し、大陸棚外縁断層でM8クラスの地震が起きる可能性に言及。その場合、再処理工場に甚大な被害を与える可能性があるとしています。しかし、国と事業者は活断層の存在を否定し、争いとなっているものです。
 今回の東北地方太平洋沖震災は、観測史上最大のM9となり、東北・関東一帯に甚大な被害を及ぼしました。そんな中、地震によって東京電力の福島第一原発1号機・2号機・3号機が水蒸気爆発を起こし、原子炉燃料の一部を溶かす「炉心溶融」という最悪の事態に陥り、放射性物質が外部に漏れ、原発からヒバクシャを出す最悪の「原発震災」を招きました。国と事業者がこれまで繰り返してきた「安全神話」は完全に崩壊し、地震と津波の影響を過少評価してきた国と事業者の責任は免れません。
 同様の被害が、2012年10月の運転再開をめざすとされている六ヶ所再処理工場や東通原発、大間原発で起きないという保証は何もありません。現在、国が進める原子力大綱の見直し策定について一部の委員から「大きく変更することはない」という意見も出されていますが、ただちに再処理工場の運転再開に向けた準備を中止し、再処理路線そのものを止め、新規立地を認めないことはもちろん、再生可能エネルギー利用への転換を図るなど、根本から政策を見直すべきです。
 私たちは、再処理工場の本格稼動を止めるまで闘う決意を新たにして、今年は6月4日開催予定となっている「第26回4・9反核燃の日全国集会」に向けて、現地で「核燃阻止」の取り組みを強化してまいります。

1104aomori.jpg

※手前で横断幕を持つのが米沼さん(昨年の4.9反核燃の日、六ヶ所村役場前)


祝島自然エネルギー100%プロジェクトがスタート
地産地消できる自分たちの電気や熱を

環境エネルギー政策研究所顧問 竹村 英明

 瀬戸内海の山口県沖に小さなハート形の島が浮かんでいます。それが祝島(いわいしま)です。周りは豊かな漁場で、島の産業の中心は漁業です。いまの時期はひじきの収穫、そしてびわ茶の生産が始まります。1000年の昔から続く神舞(かんまい)などの伝統行事や、この島だけに存在する練塀という建築様式など、貴重な歴史と伝承の島でもあるのです。

29年間、上関原発に反対する島民たち
 その島の目と鼻の先4㎞のところに、1982年に中国電力の上関原発立地計画が持ち上がりました。それから29年間、島の人たちはこの原発建設への反対を訴えてきました。上関町は原発推進の町となり、漁協も祝島漁協以外は補償金を積まれて推進側に変わっていく中で、祝島漁協だけは補償金も受け取らず、原発を建てさせずに今日まで来ました。
 原発の建設予定地である上関半島の先端の田ノ浦は、絶滅危惧種に指定されている希少生物の宝庫です。この場所だけにいるナガシマツボという貝類やナメクジウオ、スギモクという海藻類、海上には世界中でここだけ周年生息しているカンムリウミスズメが飛び、海中にはいまでは珍しくなったスナメリが棲んでいます。開発が進んだ瀬戸内海の中で、この海岸付近だけが昔からの生態系を保った「奇跡の海」なのです。この世界遺産級の海を守るために、自然保護協会をはじめさまざまな環境保護団体や科学者が、原発建設と埋め立て計画に反対しています。
 当初の建設計画発表からすでに30年近く経ち、いまは当初予定した電力需要もありません。原子炉設置許可申請は、原子力安全・保安院から耐震調査が不備として再調査を命じられ現在も調査中です。十分に不許可となる可能性もあります。予定地のすぐ近くを長さ80キロ近い活断層が2本も走っており、直下での地震が起こるかも知れません。それなのに、山口県知事が許可を出したために、埋め立て工事だけが先行開始され、「奇跡の海」を破壊しようとしているのです。

エネルギーシフトへ小さな島が動き出した
 世界はいま、石炭、石油、原子力という巨大発電所から、太陽光、風力、小水力などの分散型のエネルギーへと大きくシフトする時代を迎えています。世界中の自然エネルギーへの投資額は年間20兆円に上り、2020年には100兆円を超すと想定されています。ヨーロッパやアメリカだけでなく、中国や韓国、インドなどのアジアの国々でも急速に増加しています。
 ところが日本の電力だけは、いまだに原子力と石油、石炭が中心です。政権が変わってもエネルギー政策はいっこうに変わりません。それならば自分たちの手でエネルギーシフトを起こそうと小さな島が動き出しました。地産地消できる自分たちの電気や熱をつくり出し、原発の電気は使わないようにしたいと。それは同時に、島に新たな仕事、若者が島に戻って働く場をつくり出すことでもあります。

iwaisimasikumi.JPG

自然エネルギー100%プロジェクトの仕組み

「あなたの1%」で祝島の応援を
 電気や熱をつくるエネルギー事業だけでなく、一緒に魚介類や農産品を使ったフード事業や、島の自然や稀少生物の宝庫である原発予定地の「奇跡の海」をめぐるエコツーリズム事業、高齢化した島民が安心して生きていくための介護事業なども手がけます。新しい仕事をつくり出し、島から外に出ている子どもたち、島で暮らしたがっている若者たちを受け入れ、再び島の活気を取り戻そうという事業です。
 この事業の実現のために、「1%for祝島」という仕組みができました。企業、団体、個人、アーティスト、作家など、幅広い皆さんの自らできる「1%」を、この祝島のプロジェクトにご寄付くださいというものです。企業の利益の1%でも、個人の給料の1%でも、また楽曲の売上げの1%、何でもかまいません。「あなたの1%」で祝島を応援してください。

●寄付の送り先
 郵便振替口座 01320−2−88277(祝島千年の島づくり基金)
 郵貯銀行 店名139 0088277(祝島千年の島づくり基金)
●ホームページ
 http://www.iwai100.jp/supporter.html

TOPに戻る